人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
年賀状
No.48 幸せの青い酉(とり)年 2005. 1. 8

 2005年、今年再び一年の始まりを迎えることができた。また一年の間を生きて過ごすことができたのだ。日々伝えられる世界各地の報道からは多くの人の死が伝えられているし、伝えられない死はもっと多い。それに引き換え私には身内の死もなく、自らの命を絶つことも考えなかった一年だったのだから間違いなく私は幸せ者の一人だ。
 
 1月1日。今年一番初めの幸せな出来事は「年賀状」が届いたこと。「ひきこもり」に近いような生活をしていた最近の自分にとって、たとえ習慣的な便りであろうともみんなの一寸した近況が伝わる年賀状はとても嬉しい。
 新年早々の幸せである今年の年賀状を眺めてみると、結婚しました、産まれました、新築しました‥という同世代の友人からの報告が多く、不甲斐ない現状の自分との比較でさっきまで感じていたささやかな幸せがしぼんでしまった。そんな幸せな様子を伝える年賀状を順に送り読むと、ある一枚に手が留まった。
 「笑ってますか?」自分に投げかけられたそのメッセージに思わず息をのんだ。もう随分会っても話してもいない友人からだった。
 〔そういえば俺、笑って過ごせたかな‥。〕
 夜が来て眠りに就く頃になっても、その言葉が胸に引っ掛かって、枕に顔を埋めながら段々と悲しさと嬉しさが入り混じるような複雑な気持ちになっていた。日々心穏やかに過ごせているものの「笑って過ごせているか?」という問いには「yes」と即答できない毎日だった気がして胸が痛み、形式的な年賀の挨拶だけではない心使いの言葉が私の心を温かくする。届いた年賀状のみんなの顔が浮かんでは消えて、熱いものがまぶたの奥から込み上げる感覚の中でいつの間にか眠っていた。
 
   なぜかこの頃ちょっと涙もろくなった。そんなに歳をとった憶えはないけれど‥。
 
 今年は酉年で「幸せの青い鳥」を年賀状にデザインしてくれた友達もいる。『青い鳥(原題:L'oiseau Bleu ロワゾブルー)』はメーテルリンクが書いた物語で、チルチルとミチルの二人が長い旅を経て見慣れた自宅で見つける幸せの青い鳥はフランス語の原文で「tourterelle」と書かれている。これはごく一般的な「ハト」を指し、日本でいうところ公園などに群れている青灰色をしたドバト(またはキジバト)なのだ。
 「身近なところに気づかぬ幸せがあること、心に留めて気づいていけるようにしたい。」そう願う酉年の始まり。
 
 ちなみに私は今年の年賀状まだ書いてません。年賀じゃなくなるけどそのうち「気まぐれ便り」として出すつもり‥です。
 
 

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