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No.8 額作りと秋の虫(3) |
2003. 9. 20 |
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次の日。寝ている間に小人たちが立派な額を仕上げてくれた‥という夢のような話はここには存在しない。当然、状況は何も変わっていなかった。ふて腐れた気分はなくなっているものの、試作の額は依然としてみすぼらしく見える。
「さて、どうしたものか‥。」 横になって額を眺めたり、端材の木に色をつけてみたり、もう一度値段を調査したり、ボーっとしてみたり、色々あがいてみて時間が過ぎた。
夜になってゴロリと部屋の床に寝そべると、開け放していた窓から虫の音が聞こえてきた。外から流れ込む静かな風は既に秋の香りに染まっている。
‥額のことを考えていた。
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自分で作ることを決めた額であったが、材料費を抑えて仕上がりも良く作れそうにない。どうして俺は自分で作ろうと思ったんだろう?お金がないからか?‥それだけ?いや、それだけじゃない。木が好きで作ることが好きだからこそ、自分で額を作ろうと思ったのだ。
だから額のデザインをあれこれ悩み考え、材料を探すために苦労して何件もの店を回ろうとも、こうして良いものを作ることに手間と時間をかけて夢中になってきたのだ。
作りかけの額の試作に目を移すと、その額は既に捨てることのできない愛する作品になっていることに気づく。以前のみすぼらしさは味わいに変化して私に語りかけてくるようでもある。
横になりながら再び虫の音に耳を澄ます。「どれだけ聞いても心地よいこの秋の虫の音のような額と絵を作れたらいい。」そんな想いが浮かんで、静かにやる気をとりもどした。
好きなこと自分らしく、自分の力で‥。巧く仕上がるかわからないけれど、今回は自分で作ってみよう。原画展開催のときは絵と一緒に「額もいい」と言われたいね。(「額がいい」でもOK‥かな。)
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