W.中国一人旅編

 
 
W−1 《中国一人ぼっち》
 
 8月13日、私はモンゴルから中国の北京へやってきた。モンゴルから日本に帰るついでに、この中国をこれから少々観光するのである。モンゴルへ行く前にもお世話になった「京華飯店」へ再び宿をとり、中国北京観光の日々が始まった。
 
〔さて、まずこの北京でやりたいことは何か!?…そうだ!!うまいメシを腹いっぱい食いた〜い!〕
 
 万里の長城へ行ってけん玉することよりも、今の私はうまい料理にとにかくありつきたかった。モンゴルで食べた多くの料理はお世辞にもうまいと言えるものは少ないように思えたのだ。だから、中国に入国した際にうまい中華料理を食うぞと心に堅く決心しつつ、シベリア鉄道に揺られてきたのであった。
 しかし、そんな決心などしなくとも北京に着いた当日から中国を去るまで毎日うまい料理にありつけることができた。さすがは中国4千年の味である。
 
 余談になるが、北京の街を歩いていると、所々に残飯などが落ちている。(はっきり言って汚い街である。)にもかかわらず、野良犬・野良猫を見かけない。加えて鳩も見なければ、なんとなくスズメの姿も少ない気がする。残飯がこれほど街に溢れているのに…と気になった。それで、北京の街角で犬や猫をみた記憶を思い出してみると重大なことに気が付いた。以前に北京で見た子猫はかごの中の売り物で、食用として路上で販売されていた…。つまり、なぜ北京の街で犬・猫などの動物を見かけないのか?それはみんなが食ってしまうから(予想)なのだろうか。ここ中国では犬・猫・鳩・カラス・スズメそしてリスも食肉となる(事実)のである。
ごちそう
 そういうものなのだ。さすがは中国4千年の味…である。そのうまい中国の味を求め(犬・猫ではなく…。)北京の街中へくりだした。
 街にある割と客入りがよくて繁盛してそうな食堂を探して一人そこに入り、訳が解らないがなんとなく解る中国語漢字のメニューを見て〔これぞ!〕と思うものを一人で考えて注文する。読み通りのものが運ばれてきて一人心の中で喜ぶこともあれば、はずれて一人がっかりしてみることもある。そして昼間でも必ずビールを注文して一人で飲む。一人で舌鼓を打ち、一人で酔っ払い、一人で満足感に浸る。その後、一人で勘定をすませ、一人で店をあとにする。
 
〔なんか、味気無い…。〕
 
 料理はうまい。ビールも冷えていて、この暑い北京の夏には最高にうまい。でもなんか味気無いというか、つまんないというか…。その原因は何か!?
 
〔一人はつまんな〜い!〕
 
 つまりそういうことなのだ。やっぱり、一人はおもしろくない。珍しいものや知らないものが溢れている海外において、一人であることはおもしろ味が半減してしまうのだ。ヘンテコな物に出会っても、一緒に笑ったり喜んだりしてくれる人がいないと一人ではあまりはしゃぐこともできない。料理だって、初めて目にするメニューに会話もなく、味わっても会話がなければおもしろくない、だから料理も味気無いのだ。
 けれども、私は中国では一人なのだ。「つまんない。」と言ったところでおもしろくなる訳じゃない。ここは気持ちをくくって〔一人は一人なりに楽しめばいい。〕と思うことにした。始めはやっぱり〔おもしろくないからサッサと日本に帰ろうかな…。〕とか思うことが多かったが2日間も一人でいればすぐに慣れた。そして5・6日も過ぎると〔一人旅も中々いいなぁ。〕とすら思うようになったのだ。
 
 一人旅の良さの一つに「何をするにも自分一人。だからいつも次の行動に困難が待っている。」ということがあるのが分かった。言葉の通じない海外では、次に起こす些細な行動でさえ「困難」なのである。バスに乗るにしても、道に迷ったときでも、料理の注文をするにも…それは困難であり、ストレスが多くのしかかる作業なのだ。だからこそ、そこに価値があると私は思う。
 なぜなら、困難打破の過程において得るものは次に挙げるように多い。
 
  @自分で頑張るしかないから言葉を使うようになり、語学習得が速くなる。
  A言葉を使えば外国でのコミュニケーション数も増え、出会いの数も増える。
  B出会いの数が増えれば、外国で友達ができるチャンスが増える。
  C旅の計画・実行・反省…をするので、旅の技術が身につく。
  D総合的に旅がおもしろくなる。
 
 ということが言えると思うのだ。たしかに一人より、気の合う2・3人組(合わないと最悪、その点一人は合わせる必要がないので楽だ。)の方がおもしろい時間を過ごせるだろう。しかし、2・3人組では味わえないスリル、遭遇しない事柄、充分に体験できない事などが一人旅には存在する。一人は危険で不安でつまらないことは充分認めるが、その中で得るものも充分にあるといえるのだ。
  事実、私も様々な事件に遭遇しながら、中国語を微少ではあるが理解して話せるようになったし友達もできた。
 
では、その私が遭遇した事件とは…?体験したこととは…?友達とは…?
 
中華一人珍道中これより始まりです。
 

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