人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
割れた鋳型
No.69 人知れぬ努力の対価に(1) 2005.12. 6

 疲れと睡眠不足の身体を引きずるようにして散らかった自分の仕事部屋に戻ってきた。シンと静まった部屋、棚上に揚げて後回しにした描きかけの絵が目に付いて自己嫌悪と共に虚しい気持ちになる。
 
 まぁ、何だ‥、その、ちょっとした失敗があった。
 
 今年の夏あたりからあるところで子ども(小学校高学年)対象に月2回程度の“もの作り講座”の手伝いをしているわけだが、今年出来上がる彼らの作品を展示発表できる場を考えていた。展示といっても作品は鋳造した小さなメダル16個なので、余裕をもって並べてもA3の額縁ほどに納まるものだ。

 そんな時に、講座をしている町で"クラフト市”が開催されることになり、それに出店を予定している善師野の工房Mさんから「一緒に販売などしてみないか?」というお誘いを受けたのだ。(工房Mさんとは旧来からの付き合いがある)
 
 
 クラフト市とは「クラフト(手工芸)作家のハンドメイド商品を各個人・グループが販売するイベント」。一般的にはクラフトフェアとも呼ばれ、大きなものでは 「日本ホビーショー」 「クラフトフェア松本」などが挙げられる。かの有名な 「GEISAI」 「デザインフェスタ」 「クリエーターズマーケット」もオリジナルのアート作品販売という点で同類であるが、クラフトフェアのほうが工芸寄りの出店ブースが占めると言える。
 
 出店は工房Mさんのブース脇を少しばかり頂いて行うということで、講座でやったオリジナル鋳造メダルを店頭で実演販売しながら、子ども達の作品を併せて展示すればいいプロモーションにもなる‥。そんな妄想が一気に膨らんで出店計画を練ってみた。
 工房Mさんやクラフト市主催者の方に確認を取ると、簡単な鋳造の実演と火気使用の"OK”判断が出たので早速具体的な準備に入った。クラフト市当日まではあと一週間しかない。
 石膏鋳型(せっこういがた)の制作から店頭用の販促ポップや説明、子どもの作品展示などのデザインワーク他‥用意するものは多岐にわたっている。朝起きてから眠りにつくまでそれについて考えを巡らし、可能な限りの時間を作業に注いだ。一緒に講座を担当している人は時間的にも体調的にも私の出店には協力できなかったので孤軍奮闘の七日間が過ぎ、クラフト市前日〜当日の夜は準備で当然のように寝ることはできずにギリギリまで作業に追われて家を早朝6:30に出る。全力を出し切ってきた準備に「いける」というような成功の確信を感じていた。
 
 その日一日は雨。結局、鋳造の実演販売は鋳型に問題があり上手くできなかった。
 私の予見が足りなかったのだ。
 
人知れぬ努力の対価に(2)へつづく 
 

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